デキる人事はどう動くのか? 人事のプロが語る、強い組織のつくり方

デキる人事はどう動くのか? 人事のプロが語る、強い組織のつくり方


2015年7月14日 9時0分 ライフハッカー[日本版]


人事担当にとって最大のミッションは、採用や異動、研修、福利厚生などに関わる人事制度の企画・運用です。すなわち人事担当が優秀であればあるほど従業員にとって働きやすく、強い組織構造を持った会社ができます。

では実際、成功・成長している企業の人事担当はどんな動きをしているのでしょうか? また、デキる人事とはどのような人を指すのでしょうか?

去る6月19日、Wantedlyの事業戦略発表会「Wantedly Award 2015」内で行われた、株式会社サイバーエージェントの人材開発本部長曽山哲人氏の講演から、「デキる人事の動き方」についてまとめました。

強い組織をつくるための3つ考え方

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1999年にサイバーエージェントに入社し、その後10年以上にわたって人事部門に関わってきた曽山氏。その間、社員数は15年で150倍、売上高は500倍と、まさに急成長を遂げました。

曽山氏曰く、強い組織をつくるために人事担当がやるべきこととして、大きく3つのポイントがあるとのこと。

まず1つ目は、「成果の定義からはじめる」こと。たとえば社長や経営陣から「管理職の育成をしたい」という要望があった場合、デキる人事はどう動くのでしょうか?


・ダメ人事の場合:たとえば「会社経営のリーダーシッププログラム」「PL、BSなど会計の知識を学べる研修」等々、とにかくいろいろな研修会社を呼ぶ。そしてその中から人事担当自身が面白そうだと思ったプログラムを選び、実施する。しかし、実際に研修を実施して結果を報告すると、「なんでこんな研修やっているの?」と経営陣に後から突っ込みを食らってしまう。

・デキる人事の場:まず成果の定義からはじめる。「管理職の育成とは、なにができれば成功なのか?」ということを考え、それが経営陣と共有できてから動く。



曽山氏:これができていない人事は意外に多いです。ベンチャーでも大企業でも必ずやるべきこと。ダメな人事はなにをすべきかが定まっていないので、自分がやりたいことばかりやってしまい、結果的に経営陣の期待に応えることができないのです。


2つ目は、「経営と現場の通訳になる」こと。

経営陣の謳っている理念や方針と実際の現場が「言行一致ができているかどうか」を人事は常にチェックしなければいけません。



曽山氏:スタートアップから急成長した会社にありがちなことですが、たとえば「チームプレーを重視する」という考えを社長が持っているとします。しかし、入ってきたばかりの新卒や中途のメンバーは、「全然チームプレーじゃない。みんな個人主義じゃないか」と感じている。このように、両者の間に認識のズレが発生することがあります。こういう場合は経営陣とよく議論して改善しなくてはなりません。そのズレを見抜けるのが「デキる人事」です。


そして3つ目は、「運用で成功まで導く」。

人事は常に、「企画2割・運用8割」で動くべきだと曽山氏は言います。



曽山氏:ダメな人事は、人事制度の設計に100%の力をそそぎます。でも、実際は制度をリリースしたあと、社員からどんなポジティブ・ネガティブな声が出て、それをどう軌道修正をしていくかの方が大切。制度はつくることではなく、運用して成功させることがいちばんの目的なのです。だから8割はリリース後のことを考えるべき。サイバーエージェントの人事制度には成功したものも失敗したものもありますが、成功したものはリリース時と比べかなり形を変えています。企画段階で成功すると思ってるものは、だいたい失敗します。



「社長が言ってるからやれ」は禁句

人事部門強化のため曽山氏が営業から人事へ異動したころ、経営と現場の間の矛盾はまだまだたくさんあったと言います。しかし、人事部門のミッションとなる"キーワード"を定義してからは人事の役割が明確化し、結果的に業績がアップしたそうです。そのキーワードは、「人事は会社と現場のコミュニケーションエンジンである」。

つまり、経営陣の考えをわかりやすく現場に伝え、現場の声から本質を見抜いて経営陣に提言をするということ。人事にとって「社長が言ってるからやれ」は禁句。社員が人事の存在意義に疑問を感じてしまうからです。経営陣の方針や言葉がどんなに厳しいものでも、それをわかりやすく現場に伝えるのが人事担当の仕事なのです。



曽山氏:「自分は現場代表だ」という意識は持つべきではないです。現場の声を拾いすぎると経営陣もどれに対応すればいいのかわからなくなり、「不満ばかり持ってきてるだけでは?」と逆効果になってしまうこともあります。現場の不満から、不満の本質を見抜くことが大切です。



社員をシラケさせない人事

そんな曽山氏ですが、以前は自身がダメ人事だったと言います。

藤田社長にある人事制度をを提案したときのことです。

それは、全社員の下位10%を厳しく選びこんで、その社員たちを研修に送り込むというもの。

藤田社長から帰ってきたセリフは、「良い提案だけど現場はシラケるよね」。最初は「シラケる」の意味がわからなかったという曽山氏。会話はさらに続きました。

藤田社長「自分が下1割って言われたらどう思う?」

曽山氏「ムカつきます」

藤田社長「でしょ?」



曽山氏:つまり、良い人事制度は導入したいけど、社員のやる気をなくなせてはダメだということです。当たり前ですが、やる気をなくした社員の成績は上がらないでしょう。良い企画とシラケない運用、このバランスが非常に大切です。


すべての人事制度は流行らなければ意味がありません。だから曽山氏は、人事制度をリリースする前に「シラケのイメトレ」を繰り返し行うそうです。


シラケのイメトレ

1.誰にシラケが生まれるか?

2.どんなセリフのシラケか?

3.対処すべきシラケはどれか?


シラケのイメトレとは、上記のことを事前にシミレーションすること。

たとえば、「女性の営業社員向けのある制度」をはじめるとき。



曽山氏:まず誰にシラケが生まれるのか考えます。女性の営業、それ以外の女性社員、男性社員、それぞれからどんなセリフが出るか。たとえばそれが新しい評価制度なら、「入力方法が細かい」「UIがいけてない」等々、どういうシラケのセリフが生まれるのか。それを全部拾うのではなく、この人事制度を成功させるためにはどのシラケに対処するべきなのか。一連のシラケのイメトレを繰り返すのです。デキる人事は心理シミュレーション能力が高いもの。社員の心理状態がどのように変化するのか、常に学ぶことが大切です。



まとめると、「デキる人事」とは経営陣の考えをわかりやすく現場に伝え、現場の声にしっかりと耳を傾けながらもその本質を見極め、中立の立場として適切な経営判断を後押しするような存在だと言えるでしょう。そうなるためには、講演中に登場した「人事は会社と現場のコミュニケーションエンジンである」ということを意識して動くことが大切です。