部下に嫌われ、能力も引き出せないダメ上司 部下を成長&成功させ、利益を上げる良い上司

部下といっても、自分が評価権限を持つ部下と、単なるアドバイスするだけの部下とでは、まったく考え方や気持ちの入り方が違います。評価権限を持つということは、その人の家族の生活も左右するという自覚が必要だからです。

 筆者が初めて部下を持ったのは、評価権限を持たない部下ですが、指導をする立場となった入社3年目です。中途入社社員ではなく新入社員なので扱いやすかったですが、わかりやすく説明しなければならないので、自分の勉強にもなりました。ある時、「商品のネーミングを提案しろ」と指示した時に、その部下は100個ものネーミングを持ってきました。その中にいいものがなかったので、「ダメじゃないか、もっとわかりやすいものを考えろ」と言いましたが、「自分は果たして100個のネーミングを考えることができるのだろうか」と反省しました。自分ができないことを部下にやらせて叱ることに抵抗を感じた瞬間でした。それからは、「反論するなら、自分がそれ以上にできるようにならなければならない」と肝に銘じました。

 また、自分に自信がない時には部下を叱れません。部下の失敗を叱らなければならない時、その失敗が自分も日頃よくやってしまうミスの場合は叱れませんでした。情けないの一言です。その時、「自分もしっかりしなきゃいけない」と実感しましたが、その心構えが自分自身を成長させるものです。筆者の提唱しているマーケティング定義である「刺激・感動・行動」のサイクルは、人間関係でも使えるのです。

 ともかく、部下を指導する際は会社の利益も考えなければならないし、自分も相当覚悟しなくてはならない。一人の人間を指導するのは、下手をすればその人の家族も犠牲にしなければならないからです。部下を持ったら、まず責任感を猛烈に感じなければなりません。そして、「その部下を育てる」という考えで接する必要があります。

 部下は、自分の手下ではなく子供のように考えるとよい。子供でも大人でもそうですが、親に期待され、成功させて喜んであげればどんどん自分で成長していくものです。子供(部下)は、親に喜んでもらうのが利益(評価)よりも何よりもうれしく感じると肝に銘じていれば大丈夫です。子供(部下)が成功した時には親(上司)が大げさに喜んであげれば、子供(部下)はとても喜びます。

 そして、報酬やポジションをちゃんと上げてあげれば、ものすごくやる気が出てきます。上司の最大の責務は、部下の利益をとにかく上げてあげることです。具体的には、昇格させる、給与の査定を良くしてあげるなど。サービス残業などさせず、労働の対価はきちんと払う。

●部下との正しい接し方

 では、以上のことを踏まえ、上司として部下にどのように接すればよいのか、上司として数多くの部下と接してきた筆者の経験から、その具体的な方法を以下に整理してみます。

(1)押し付け指導はやめる

 自分が部下のために一生懸命指導していると思った瞬間にNGです。特に最近の若者は「余計なお世話」くらいにしか思わず、「腕を磨いたらもっといい会社に転職してやる」などと考えている社員も少なからずいるからです。そんな姿勢では、部下のやる気は出ません。「指導は部下のためであり、会社や自分のためではない」と部下にわかってもらうことが大切です。部下のことを本気で考えるならば、部下の将来の天職を見つけるくらいの真剣さが必要であり、口先だけで言っていても長く一緒に仕事をしていればすぐにばれてしまいます。当然、会社のために仕事をするのがビジネスパーソンの義務ですが、本気で部下と向き合うのならそのくらいの覚悟が必要です。

(2)とにかく小さなことでも褒め、諭してから期待する

 上司であるあなただって、昔は新人だったということを思い出してください。誰だって最初はわからないし、失敗もよくする。にもかかわらず、叱るだけの上司がいます。それではダメです。叱る前に、「残業時間削減、効率化の提案はものすごく良かったよ、君なら今回の失敗があったけど、成功体験を積んでくれることを期待しているよ」など、最初に褒めてから期待を込めての気づきを与えるとよい。

 かつては体育会系のノリで叱ってもよかったのだろうが、今はとにかく具体的に褒めてから諭し、期待する。そうすると部下は上司のためにがむしゃらになってくれます。人間は感情の動物だということを忘れないでください。

(3)どうしたらできるのかを考えさせる

 筆者が伊藤園に在籍していた時に叩き込まれたことだが、「何事もどうしたらできるのかを部下に考えさせる」ということです。部下が失敗することは想定内のはずですが、「叱る」「怒る」「諭す」は大きく違う意味を持っています。

 叱るのは、やらなかったり、手抜きしたり、ボンミスなど能力的に気がつかない不可抗力の場合。怒るのは、部下に恨まれて意味がありません。やはり今の時代の指導は諭すのが一番良い。誰のためにというのが相手にわかるからです。部下のほうが仕事ができるなら、あなたとポジションをチェンジすればよい。

●上司が取るべき行動

(1)人格を否定しない

 筆者は昔、上司からみんなの前で人格を否定されたことがありますが、このことは一生忘れられません。部下もいる朝礼で、私という人格をけなされたのです。朝礼の後、裏の倉庫に行ってスチール棚を思い切り蹴飛ばして破壊しました。幸いすぐに棚は元に戻すことができましたが、私の左足は捻挫して、その後1週間は足を引きずる羽目になりました。

 筆者がヘッドハンティングされて辞める時に人事部長から、その上司はお前を後継者にしようと考えていたがうまく伝えることができなくて残念、裏切られた気持ちだと
言っていたと聞かされました。人格の否定を行うと貴重な人材を失い、さらに一生恨まれることになります。上司となったら、バランスの取れた喜怒哀楽を表現することが重要です。

(2)部下と飲みに行くなら自腹

 部下と飲みに行っておごる場合には、領収書は絶対に切らないでください。領収書をもらうということは業務ということです。実際に私が部下から言われたことですが、部下は私用にもかかわらず領収書をもらっている上司を軽蔑します。あえて自腹を切ってください。上司は部下よりも給与が高いはずなので、部下に還元してください。

(3)部下の成功は心の底から喜ぶ

 部下が仕事でうまくいった時には、思いっきり喜んであげてください。言葉と表情を合わせて表現しなければ伝わりません。当然、その成功が会社のためになるのなら、部下に利益を還元することも必要です。給与やボーナスを増やしたり昇格させるなど具体的な行動がなければ、相手には通じません。
(文=山本康博/ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役