いつも高収益な業界の仕組み - IT、外資コンサル、美容・エステ、スマホ……

いつも高収益な業界の仕組み - IT、外資コンサル、美容・エステ、スマホ……


大塚常好=編集・文

どんな時代状況でもなぜか儲かる業種がある。調べてみると、そこには人間心理を計算し尽くした「算段」と「戦略」があった。内情に詳しい2人の専門家に聞いた。

変動費最少化――売り上げが増えても経費は上がらない「優等生」

▼なぜ平均利益率の6倍も稼げるのか?
「あの企業はどうやって儲けるのか?」「景気が悪くても好調な企業は、なぜ好調なのか?」

理由は、シンプル。他社が真似できない「儲けの仕組み」があるからだ。

すべての企業がのどから手が出るほど欲しがる3つの仕組みを解説しよう。

1つ目は「変動費最少化」だ。

日興証券出身のファイナンシャル・プランナー、洞口勝人氏は言う。
「いつも収益がいいと感じる企業の筆頭はJR東海です。営業利益率は約35%。東証一部上場1800社余りの利益率の平均が6%台ですから、35%という数字のすごさがわかります。新幹線で東京と大阪を往復する場合、料金2万8000円の約3分の1、9800円が営業利益となります。公共的な移動手段としてはほかに、飛行機やバスがありますが、時間の正確さ・速さ・安定性とアクセスのよさなどで、JR東海の新幹線は図抜けています」
鉄道業は、設備投資の減価償却など固定費は比較的高い一方で、変動費はそれほどない。JR東海の場合、損益分岐点を大きく超えているので長年の利益率の高さにつながっている。また、他の移動手段に負けない魅力を絶えず付加し続ける努力をしているからこそ、東京・大阪というドル箱路線を大きな収益源にし続けられるのだろう。

洞口氏によれば、1社のみならず業界として儲け続けているのがスマートフォン・携帯電話などの通信会社だと話す。NTTドコモauソフトバンクの営業利益率は20%を超える。
スマホ1人あたりの月間使用料を約8000円とすると、1600円が各社の利益額になります。こちらも平均の利益率をはるかに上回ります。なぜ、それが可能なのか。この場合、3社で市場をほぼ独占しているという点が大きいでしょう」(洞口氏)
さらに、洞口氏が近年急成長し、今後もさらに伸びる余地がある業種として指摘するのが、IT業界である。
「工場がなく、在庫がなく、オフィスが狭くてもOK、社員数も製造業のように必要ないので人件費も比較的安くすみます。よって、高収益な経営を保つことができます。例えば、ネット証券の松井証券の利益率は60%前後にも及びます」(同)
フロントエンド・バックエンド――ITは最高のサービスを無料で提供

▼IT業界は「ユーザーの声をカネに換える」
儲かる仕組みの2つ目は「フロントエンド・バックエンド」だ。IT業界にはCGM(Consumer Generated Media)という言葉がある。「消費者が生み出すメディア」という意味だ。このコンセプトを活かしたサービスで利益を得ている企業は山ほどある(表を参照)。


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「消費者が生み出すメディア」で儲けるITサービス

おなじみのフェイスブックツイッター、ユーチューブなど、「無料」のネットサービスはもはや現代人に不可欠なツール。税理士でIT業界に詳しい藤原実氏は次のように語る。
「とても便利で、しかも基本的に無料となれば、ユーザーはどんどん増え、それに比例して投稿や書き込みも膨大なものになります。面白い情報、役に立つ情報が集まれば集まるほど、さらにユーザーがやってきます。このように高品質の投稿などが勝手に集まり、ポジティブなフィードバックが集積することでサイトは強化され、訪問者の加速度的な増加につながります」
無論、IT企業も無料で提供するだけではない。利潤追求に積極的だ。ネット上で大勢の訪問者が来るという「立地」のよさを活かして、他の企業に広告を出稿してもらったり、集積したデータをもとに企業にマーケティングデータを提供したりすることで大きな報酬を得ているのだ。

IT企業はより多くの広告を出稿してもらうため、例えば、ユーザーにサイト内のあちらこちらを“回遊”して滞在時間を長くしてもらえるようコンテンツを充実させ、媒体としての価値を高めているという。

いわゆる、まとめサイトはその典型的な例だ。「NAVERまとめ」はそのとき話題になっているネット上のニュースやコラムなどをまとめるサービス。話題になっている内容やテーマに関心がある読者は、じっくり閲覧するから滞在時間が長くなる。しかも、この「まとめ」という作業を運営者側がするのではなく、ユーザーに作ってもらう(まとめ記事に人気が出ると作成者にインセンティブを与える仕組み)というから、なんとも賢いではないか。余計なコストをかけずに、儲ける仕組みを巧みに構築しているのだ。

▼数%のユーザーにカネを出してもらう
IT企業の収入源はほかにもある。

「無料で使えるけれど、ユーザーが詳細な検索をしたり過去記事のクリップができたりする機能を有料化し、一部のユーザーに課金してもらう“戦略”も採用しています」(藤原氏

有料・課金の方法は、例えばこうだ。

・ユーザーが無料で使える日数に制限を設け、それを超えた場合は有料プランに移行しないと機能が使えなくなる(時間制限型)。
・ 無料で利用できる機能は一部に限定して、フル機能を利用したい場合は有料とする(機能制限型)。
・ビジネスで使う場合は有料にする(商用課金型)。


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ソーシャルゲームでユーザーが100円課金を支払うと

藤原氏は語る。
「ユーザーの中で課金や有料化に応じたりする人の割合は数%ですが、無料で使えるようにして囲い込んでおけば、将来、課金してくれるかもしれない。それにたとえ課金ユーザーでなくても『広告を見る人』などにはなるのでムダな存在ではありません」
ソーシャルゲームGREEやモバゲー、「パズドラ」のガンホー・オンライン・エンターテイメントは多くのゲームを無料配信している。ユーザーはいつも無課金で楽しむことは可能だが、配信側はそんなお人好しばかりではない。
「ゲームを有利に効率的に展開できるアイテムなどを用意して、ユーザーを『もっと速く先のステージに進みたい』『さらに上のレベルへ行きたい』という気持ちにさせます。そうやって徐々に稼ぎの源泉である課金ユーザーに転換させていくのです。ゲームの世界にハマったユーザーは、『1回だけ』とお金を出すと、もっと目標をクリア(攻略)したいという衝動・欲望が抑えられなくなり、“課金地獄”からなかなか抜け出せなくなるのです」(同)
商店街や百貨店が頻繁にセールやイベントを開催するように、オンラインゲームでもユーザーにポイントなどをご褒美することで引き寄せるなど、人間心理や感情を知り尽くした戦術を駆使し、ロングテールで儲けるのである。

当初、無料でユーザーを存分に楽しませ、その後に課金による収入を得るといったオンラインゲームを含むネット業界のビジネスモデルを「フロントエンド・バックエンド」という。自分たちの最高のサービスを無料で惜しみなく提供し、ユーザーの日常に組み込む。いわばユーザーにとってなくてはならぬインフラとなる。それに成功すれば、お金はあとからついてくる。

この「フロントエンド・バックエンド」は他の業界ではもっと早くから採用されている。藤原氏はこう話す。
「例えば、通信販売の健康食品では『1カ月間無料』『気に入らなかったら返品可』といった宣伝文句で試してもらい、その効果を実感してもらったあと継続して購入してもらうようにするのが得意。また、女性向け美容エステ・脱毛業界などは『今だけ、わき毛処理200円』と期間限定の超割安の料金設定によって定期的に店に通ってもらうことで、他のムダ毛処理や脂肪吸引をすすめたり、美容品を販売したり。そうやって“投資”を回収する。脱毛する女性が関心を持つ別のニーズに応えられるよう、脱毛運営会社が、旅行業や語学学校も手がけて、そちらへ客を誘導してグループ全体で儲ける作戦もあります」
まずは企業側が、客にとって価値のあるモノやサービスを安く売って(無料で配布して)集客し(=フロントエンド)、その後にしっかり利益を確保する商品を用意する(=バックエンド)。このやり方で回せば算段が十分に成り立つのだ。

前述したスマホ業界も、新規の客などに最初2年間、各種割引でかなりリーズナブルに利用してもらい、その後は正規の料金でじっくり回収し“黒字化”していくというプロセスは、このフロントエンド・バックエンドの一種と言っていいかもしれない。

客の囲い込み――外資系コンサルは「コンセプト」を練り上げ売り込む

▼「クラウド」「ビッグデータ」「web2.0」……
3つ目は「客の囲い込み」だ。

マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン コンサルティング グループといった外資コンサルティングも、常に高い業績を残している業界である。
コンサルティング業界の人々は新しい言葉やコンセプトを企業に売り込むのを得意としています。最近であれば『クラウド』『ビッグデータ』『CRM(Customer Relationship Management)』、昔でいえば『web2.0』『ユビキタス』。そうしたキーワードを前面に打ち出して、その実現をするには、事業再編や新ITシステムの導入だけでなく、人事刷新も必要……と次々と仕事を開拓できます。いわば、常に自分たちでブームを生み出して、企業を口説いていくのです」(藤原氏
企業に食い込み、長い期間、定期的な売り上げを得るという意味では地元型の小さな花屋やスポーツ用品店、タバコ店も同じ儲けの仕組みかもしれない。
「一見、B2Cですが、実際はB2Bの取引で売り上げを確保していますね。

花屋なら地元のホテルや旅館、葬儀場、結婚式場と関係を密にして商品納入ルートを維持します。同じようにスポーツ用品店は個人客よりも近くの学校を得意先にして体操着や上履きなどを一学年の生徒数分、大口で納める。タバコ屋もパチンコ屋など大量購入してくれる客を確保することでそれなりの収入を得られるのです」(同)