部下が“聞きたくない”話、うまく伝えられますか?
上司にとって、部下に「よくない話」をするのは一仕事だ。「成果を上げたのに昇給が見送られた」「忙しいさなかに大型プロジェクトがふってきた」「望まない部署への異動が決まった」――といった話を部下にうまく伝えるのは本当に難しい。
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しかし、ちょっと周りを見回してほしい。同じ“よくない話”をしているのに、「相手を納得させる話し方」ができる人と、そうでない人がいないだろうか。この違いはいったい、どこから生まれるのだろう。
●部下の心が離れる“2つの”落とし穴
この違いを、目標管理面談のシーンを例に見ていこう。チームのメンバーが設定した目標の成果を評価する際には、一次評価者(直属の上司)と二次評価者(直属の上司の上長など)がいるのが一般的だ。両者の評価がそろえば問題ないが、例えば一次評価で“A”がついた部下を、二次評価者がさまざまな事情から“B”評価にするケースもある。
直属の上司が部下に“B評価になったことを伝える”時、こんな言い方をしてしまったとしたら、部下はどう思うだろう。
「私としては、あなたに“A”評価を付けたんだよね。宣伝の成果も出ているし、営業面でも他のメンバーより秀でた結果を残してくれたし。でも、全体調整が入ってしまい、“B”評価になってしまって。私は今でも“A”だと思っているんだけでどねぇ。調整の結果なので、“B”で納得してくれるかな」
こんな言い方では部下が納得しないばかりか、やる気を損ね、上司に対する信頼も揺らぐだろう。
この話し方の問題点は2つある。1つは、上からおりてきた評価をそのまま伝えてしまっている点だ。評価が下がったことを納得してもらうためには、「私はA評価なのに上司はB評価を下した」「全体調整が入った」という事実をそのまま伝えても何の解決にもならない。“理解を得るために伝えるべきこと”を選び、その部下に“ささる言葉”で言い換えることが重要だ。
もう1つは、伝えるべきことを“自分の言葉”でうまく表現しきれていない点だ。この「私としてはAだと思うんだけど、全体調整が入っちゃって仕方なくBなんだよねぇ」という言い方は、部下から見ると「私は悪くない。あなたの評価が思ったほど高くならなかったのは私のせいではない」という責任逃れに聞こえてしまう。上司自身の言葉ではあるものの、“上司として尊敬される”表現からはほど遠い。こんな言い方をされた部下は、評価がBに下がったことはもちろん、説明の仕方にも不満を抱くはずだ。
これを“部下に伝わる言葉”で言い換え、自分の意志や気持ちを込めたのが次のような表現だ。
「宣伝の成果が出ていたし、営業面でも秀でた結果を残してくれたので、その点では評価している。でも、あなたの職位なら、もっと大きな業績を残せるはずだと私も部長も期待している。今回は、B評価になるけれど、次期はA評価になるようがんばってみよう。私も支援するから」
余計な言い訳をせず、部下への期待や応援の気持ちがこもった“自分の言葉”で伝えれば、部下もきっと納得するはずだ。
このように、相手に合った表現を工夫し、自分の言葉で話すことは上司にとって重要だ。上司から言われたことを部下に伝える時、上司から聞いた内容を聞いたとおりの言葉で部下に伝えてしまうと、動揺させたり、誤解を招いたりすることがある。上司は普段から、“どんな伝え方をすれば”部下がやる気を出してくれるかを把握し、やる気を損ねない表現で上手く伝えることが求められる。
●身もふたもない一言がやる気をそぐ
この伝える工夫がいかに重要なのかを示すエピソードがある。ある30代のエンジニアの経験談だ。
ある時期、経営者と部長たちの会議が増え、来期についての重大な決定がなされたという。これまでの仕事に新たなプロジェクトが加わることになり、課長が定例会の中でこう説明した。
「来期から新たに、〇〇と△△を手掛けることになったから。これは、全部署それぞれに目標を持つということなので、うちも当然取り組むことになる。皆さんもそのつもりで」
部下たちは一様に驚き、そのうちの1人がこう質問した。
「あの、来期って〇月からのことでしょうか? 既に大きなプロジェクトが動いているので、うちの部署でその時期のスタートは現実的ではないと思います。時期を3カ月ほどずらすか、うちの部署は異なるアプローチをするというのはありでしょうか? スケジュールもリソースも厳しいと思うんです」
その時、上司はこう答えたのだった。
「上で決まったことだから仕方ない。やるしかないでしょう」
内心「え?」と思い、心底がっかりした彼は、それ以上質問するのをやめたそうだ。
上で決まったことだからやるしか選択肢がない――というのは、会社である以上、避けられないことだが、こんな言い方で“より大変なミッションを課せられる”チームのメンバーがやる気を出していい仕事をするとはとても思えない。
この上司が「”上で決まってからおりてきた話”ではあるが、このミッションは私たちにとっても大きな挑戦の機会になるし、成果を挙げられれば売上や利益にも貢献できる。そして何より、一人ひとりの成長にもつながるから、前向きに取り組んでいきたい」――と言ったらどうだろう。
部下の受け止め方も、「課長は何とか阻止しようと頑張ってくれたのかしれないなぁ。ま、決まったことなら、楽しくやるか』というように変わったかもしれない。
“上からのミッションを伝えるだけ”なら、誰でもできる。しかし、チームを束ねるリーダーなら、ミッションの伝え方を“部下のタイプに合わせて工夫”し、自分の意思とともに“自分の言葉”で部下に語る必要がある。
それは、“自分の言葉に責任を持つ姿勢を示す”ことに他ならない。自分の言葉で語り、その言葉に責任を持つ上司の一言なら、いやな話でも部下は理解し、納得してくれるはずだ。