なぜ、客は「6:4:3」で並んだ商品に弱いのか 値段の高いもののほうがいいものだという心理作用(ヴェブレン効果)

なぜ、客は「6:4:3」で並んだ商品に弱いのか

 「1カ月間返品OK」「利息は当社負担」といった販売は、高いものを買う“恐怖感”や罪悪感を取り除く効果がある。人は一度使用したものに愛着を感じ、手放したくないという心理も巧みに利用している。客に気持ちよく買ってもらうための計算し尽くされた戦略とは。

■なぜ、「高いものはいいものだ」と思うのか

 「値段の高いもののほうがいいものだという心理作用(ヴェブレン効果)が、以前から日本人には強いと思います」

 とは、目白大学教授で心理学者の渋谷昌三氏だ。ずっと売れ残っていた服を定価の何倍も高い値札にした途端、あっという間に売れた。そんな例は少なくない。店側としては、客に何となくよさそうだと衝動買いさせるわけだ。もちろん商品の種類によるが、値引きすれば売れるというわけではないのだ。スーパーに山と積んであるセール品に客が手を出しにくいことがあるのは、「買って当たり前」という暗黙の前提に反発心が生じるからだ、と渋谷氏は語る。

 「値段の高いものは、価値のあるものというある種の思い込みと同じように、『ただ今欠品中』『品薄のレア商品』に弱い人も多い。手に入りにくいものほどよく見える、という希少性の原理を上手に利用したセールス法も増えています」

 販売は心理学。その最前線のテクニックを紹介していこう。

ゴルディロックス効果!  なぜ、「6:4:3」に客は弱いのか

 心理学に基づき人の心を読んで操る技術「メンタリズム」を駆使するメンタリストDaiGo氏。かつてはテレビなどでのパフォーマンスが活動のメーンだったが、近頃は銀行や保険会社、高級ブランド、アパレル企業などから社員研修や講演を依頼されることが多いという。

 「商品をどう陳列したらたくさん売れるのか」は、とりわけ最近増えている依頼テーマだ。

 「陳列の心理学というものがあります。仮に、3つの商品が横並びで陳列されていたとします。人の視線は“Z”の形で移動しますから、客の目は左端→真ん中→右端へと動き、再び真ん中→左端へと戻っていきます。結果的に、一番売れる商品はどれかといえば、真ん中。売れる率を真ん中が100とすると、右端は92で、左端は72になります」(DaiGo氏) なぜ、そうなるのか。最初に左端に目がいく習性を利用し、自動販売機では左(上)端に一番の売れ筋を配置し、ホームページの作成は左上にトピック的なものをもってくるのがセオリーと言われるが……。

 「確かに人は左端を見ますが、すぐ目に入ったものをすぐには買いづらい。ほかにもっといいものがあるかもしれない、という心理が働くからです。とりあえず右端までリサーチして、また左端方面へ目線を戻す。目に触れる回数が多い右端と真ん中ですが、より自分が手を伸ばして取りやすい真ん中が一番売れるということでしょう」(同)

 DaiGo氏はある書店に陳列法を尋ねられたとき、以下のように答えたという。

 基本的に左端にはアイキャッチとなる宣伝のポップなどを配置し、「売りたい本」は真ん中に置く。もしくは、黙っていても売れる人気本をあえて左端にして、その隣の真ん中の位置に店イチ推しの本を配置する。

 「左端に売りたい商品を置いてはいけないことは確か」(同)

 家電ショップなどでしばしば見られるのが、「売りたい商品の“劣化版”をラインアップに紛れこませる」という販売手法。

 A、B、Cの新商品を並べても、客は似たり寄ったりの機能とデザインで購入の決断がなかなかできない。しかし、そこへAの型落ち品など“劣化版”(D)もいっしょに並べると、顧客は、AとDとの比較対象で考え、「ならばAに決めよう」となることが多いとDaiGo氏は語る。

 「同じメーカーでタイプの似ているAとDという商品だから比較しやすい。でも、BとD、CとDではうまく比較できない。言ってみれば、Dという“捨て駒”を商品棚に陳列することで、狙い通りAを多く売ることができるのです」(同)

 このメカニズムは、「美女選び」(図参照)をするときにも当てはまる。

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6:4:3の理論で主力商品を売れ

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 一方、「パフォーマンスをする際にも取り入れている」とDaiGo氏が語るのがゴルディロックス効果という心理作用だ。

 これは簡単に言うと、商品の知識が乏しく、なおかつ価格の選択肢が2つしかない場合、約70%の人が価格の安いほうを選び、価格の選択肢が3つになると中間(真ん中)のものを選びやすいという客の心理。

 「4000円の商品を売りたいと考えたとき、それよりも少し安価な3000円の商品と、その2倍の6000円の商品を配置すると客は極端性を回避し、“中を取って”4000円の商品を自ら購入します」(同)

 価格差をつけて陳列するなら、6:4:3がもっとも売りたい商品をさばくことができるのだ。

 さらに、選択肢を示す順番にもたくさん買わせる術がある。

 最初にもっとも高価なC、続いて、もっとも安価なA、最後に売りたい本命のBの順だ。

 「この見せ方をすると高価商品と安価商品のコントラストがより明確になり、真ん中を選びやすくなるのです」(同)

 なお、選択肢の数は最大5個。6個以上になると「選択回避の法則」が働き、「また今度来るよ」と買うのをやめてしまうのだ。